2026年9月29日、愛媛県の新居大島(にいおおしま)への離島引越し便。今回のお客さまは、島へ移住し、コワーキングスペース「見あげてごらん」を始める正井さんです。
新居大島は、新居浜市の沖に浮かぶ周囲約9.1kmの島。黒島港から市営の船に乗れば、約15分で着きます。伊予水軍の頭領・村上義弘が生まれた地とも伝わり、船を隠したという「舟かくし」など、水軍にまつわる遺構が残っています。特産品は、白い皮と甘さが特徴の「白いも(七福芋)」。毎年1月には、無病息災を願う「とうどおくり」も行われます。島の人口は、公表資料では2020年の国勢調査で131人、87世帯。かつての大島小学校は廃校となり、近年の島については島の人曰く「島民約80人、平均年齢約70歳」とのことです。

最初に正井さんから引越しのご相談をいただいたとき、私は一度、お断りするつもりでいました。アイランデクスの本社は福岡で、愛媛まで伺う交通費を考えると、今回の引越しには費用感が合わないだろうと。それでも、まずはお会いして話しを聞こうと思い、8月に新居浜へ行きました。
そこで正井さんの話を聞くうちに、私自身もこの引越しが面白くなってきたし、正井さんにも、私たちと一緒に取り組むことを面白がっていただけたのかもしれません。そうして今回、新居大島への引越しを共にすることになりました。
正井さんは新居浜出身。関東をはじめ日本各地で事業を行った後、親御さんのいる地元へ戻ってきました。新居浜では、開店当時のスタッフの平均年齢が77歳という「酒井カリー」をプロデュース。そして次は、20代前半の地元出身、ムギトくんたちと新居大島で「見あげてごらん」をつくります。周りには、地域の事業者や、彼らを応援する大人たちも集まってきています。
雨の朝から、みんなで新居大島引越し
引越し当日は、朝から大雨でした。まだ梱包する荷物もあり、始まる前には少し不安な空気。
でも、作業が進むうちに、みんなでお茶を飲んで休憩したり、正井さんが注文してくれたお弁当を囲んで自己紹介をしたり。手を動かしながら、少しずつ打ち解けていきました。雨は降り続いていましたが、現場の空気は明るくなっていったように思います。

船にも、予定外のことが起きました。新居大島へ渡る船は、車が事前予約ができず、港に着いた順に乗船します。この日は、先日の土砂災害に対応するダンプカーの乗船が私たちより前に重なり、予定していた便が満船に。私たちのトラックは次の便を待つことになりました。
島への引越しは、船に乗っている時間が短くても、船の都合からは自由になれません。それでも、「そんなこともあるよね」と受け止め、待つ時間も含めて前へ進んでいきます。
新居大島へ着いてからは、あらたにリノベーションした一軒家に運び入れ。当日手伝いに来てくれた皆さんも一緒です。重い荷物があり、雨の中の作業も続きました。それでも、みなさんいつの間にか役割分担しながら、声を掛け合ってみんなで引越し。皆さん、どこか楽しそうでした。

本当は最後の段ボールの開梱や荷物の整理まで、あと1時間ほどでやり切りたかった。けれど全員の帰りの船があり、少し作業を残すことになりました。予定より約3時間長い一日でしたが、正井さんたちは前向きに受け止めてくださいました。手伝ってくれた皆さんからも、最後には「楽しかった」という言葉が聞けました。
友達の引越しは、楽しいはずだ
作業の後、正井さんが飲み会を開いてくれました。そこで新居大島へ通うようになった経緯や、「見あげてごらん」に集まる人たちの話を聞きました。
「新居大島をこうしたいね、という話は聞いたことがあった。でも、行政が動いたらとか、お金を出してくれたらとか。構想はするけど、なかなか自分が動くわけじゃない」
そんな話の一方で、正井さんたち自身も、最初から「島を何とかしなければ」と大きな使命を掲げていたわけではなさそうです。「一回行ってみよう」と島へ行き、「なんか面白そうやな」と思った。そこから、自分たちの場所をつくるところまで来た。
私はそういう自然な動機が好きです。まず自分が面白いと思うことをやる。すると、周りの人も関わりたくなる。自分たちの楽しさから始まって、結果として誰かの居場所にもなる。そういう「自己中心的利他」のような動きが、新居大島で起きようとしています。

飲み会では、私も引越しについて話しました。私は、「友達の引越しは本来楽しい」と思っています。
引越す本人は、段取りが気になるし、手伝ってもらうことに申し訳なさも感じるかもしれません。でも、「手伝いに来る友達」は、まして友達が島へ渡り、やりたいことを始める引越しなら、その背中を押せることがうれしくて、作業も楽しいはずです。
今回の現場で、私たちもそんな気持ちになりました。

最近、私たちは「信頼第一、ちょっとおせっかい、また会いたくなる。そんな、たのしい引越しにしましょう!」という言葉を掲げてます。目指しているのは、お客様と業者の枠を超えて歩み寄る「関係性の変容」です。今回も一緒にお弁当を食べ、雨の中で荷物を運び、夜は酒を酌み交わしながら島の未来を語るうちに、いつの間にか友人のような関係になっていました。

これを図解したのが「感情の過去改変」です。作業中はまだ他人同士だったとしても、関係性が深まった後から振り返れば「友達の引越しをみんなで楽しく手伝った記憶」へと過去の体験の意味が塗り替えられます。関係が変われば、過去の記憶も、仕事の意味も変わることがあるんじゃないかって思うんです。
他の仕事でも、そういう感情の過去改変ってあるんじゃないでしょうか。
「見あげてごらん」で始まること
「見あげてごらん」では、コワーキングだけでなく、クソニンジンという植物の生産や研究開発、商品づくりにも取り組むそうです。

クソニンジン(Artemisia annua). 出典: Wikispecies – Wikimedia
名前には驚きますが、キク科ヨモギ属の植物で、特徴のある芳香を持ちます。薬用植物として研究され、その成分であるアルテミシニンは抗マラリア薬の原料として知られています。正井さんたちがこの植物から何を見つけ、どんな形にしていくのか。私はその過程にも興味を持っています。
正井さん、ムギトくん、そして一緒に引越しを手伝ってくださった皆さん、今回は本当にありがとうございました。
私も愛媛県出身ですが、離島引越し便では、新居大島のように、船で15分ほどの瀬戸内海の島への引越しは、実は当社にとって珍しく、地元・愛媛の島へ荷物を運べたことが、私にはうれしかったです。
そして何より、正井さんたちがここで新しいことを始める、その日に立ち会えた。引越しが終わった今、私には新居大島へまた遊びに行く理由があります。
また島で会いましょう。
アイランデクス株式会社
代表取締役 池田和法


