奄美大島の瀬戸内町に滞在中、私たちはある面白い話を聞きました。それは、ドクダミ科の植物「ハンゲショウ」に、ニンニクの臭いを強力に抑える効果があるという、地元に伝わる昔ながらの知恵です。
その真偽を確かめるため、私たちは地元の古仁屋高校の学生たちに少し力を借りて、この民間伝承の研究を始めることにしました。
ちなみに、この瀬戸内町では、ハンゲショウのことをシマの方言(シマグチ)で「ぴーぴー草」とか「ひゅーひゅー草」と呼びます。なんとも可愛らしい響き。でも、その効果は侮れません。
このブログでは、そんな「ぴーぴー草」の秘密に迫る、私たちの研究の様子をご紹介していきます。どうぞご覧ください!




ハンゲショウってどんな植物?
ハンゲショウは、ドクダミ科の植物で、漢字では「半夏生」または「半化粧」と書きます。その名前の由来にはいくつか説があります。
ハンゲショウの名前の由来:
雑節の「半夏生」(7月2日頃)という時期に花が咲くから。
もう一つは、葉の半分が白くなる様子が、まるでお化粧をしているみたいだから、と言われています。
この葉が白くなるのは、実は6月から7月の開花期だけ。しかも、すべての葉ではなく、花に近い葉の表面だけが白くなり、裏面は白いままではありません。葉には独特の香りがあります。
(ドクダミ科ですが、ドクダミの強い匂いとは異なり、どことなく甘い香りがします。)


研究に至るきっかけ
奄美群島には、昔から食べられているスタミナ食に「ニンニク塩漬」という伝統料理があります。

にんにくの塊を塩漬けにしたものである。奄美大島では「フルンガブの塩漬け」とも呼ばれる。塩漬けにした後、黒糖漬けや酢漬け、きび酢に漬ける品もある。奄美群島のスタミナ源として、古くから日常的に食されている一品である。
参考:農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/traditional-foods/menu/ninnikushiozuke.html
私が奄美大島の瀬戸内町清水に滞在中、あるおばあ(バアバ)から「これを毎日食べて、がんばりなさい」とニンニク塩漬をいただきました。
その時は嬉しくて、ニンニク塩漬を丸ごと食べたのですが、翌日、口臭やカバンの中がニンニク臭くなってしまいました。そのことをおばあに相談すると、「ニンニクには、ハンゲショウがいいよ!」と言って、すぐに野草を採ってきてくれたのです。
そしてまず、ハンゲショウを、葉っぱのままカバンに突っ込んでおいたら、3時間ほどでカバンにこびれついていてニンニクの臭気を感じなくなり、その効力の高さに衝撃を受けて、研究してみるに至りました。
研究結果の概要
ニンニク臭を臭気源とし、ハンゲショウのエタノール抽出液を用いた各濃度での処理を行った結果、濃度が高いほど有意に臭気強度が軽減され、3 時間経過後でもその効果が継続していることが確認されました。また、抽出溶媒の違いによる効果の比較では、エタノール抽出が最も高い臭気抑制効果を示したことから、有効成分は揮発性であることが示唆されています。
簡易に論文化してみた理由
今回簡易に論文化して、自社サイトで公開してみたことには二つの理由があります。
①奄美の知恵「ハンゲショウ」に光を当てる!
この研究のきっかけは、奄美大島瀬戸内町の清水で耳にした、ある民間伝承でした。それは、「ハンゲショウという植物が、ニンニクの臭いを抑える」という、ばあばたちの生活の知恵。私たちは、この古くから伝わる「シマの叡智」を、科学的に検証し、彼らの知恵に光を当てたいと思ったのです。
毎朝、ばあばたちに研究の進捗を報告すると、それはもう目をキラキラさせて大喜び。「池田さん!商品化して集落の予算にしようね!」なんて、冗談交じりに盛り上がるんです。自分たちの知識が、少しでも世に出ることを本当に嬉しそうにしてくれて、私たちも胸が熱くなりました。
※もちろん、今回の論文は学術誌に投稿するような厳密なものではありません。試験方法は、日本工業規格(JIS K 102)に基づく臭気強度(odor intensity)による6段階評価を利用するなど、試験方法と統計処理には妥当性をもたせていますが、研究方法はかなりシンプルになるようにしました。肝心の臭気測定も、プロの測定士ではなく、高校生によるブラインドテストで実施しました。これはあくまで「趣味の研究」ということでお茶を濁させてください(笑)。
②高校生たちの人生に科学を!
もう一つの大きな目的は、私たちが運営を委託している古仁屋高校の生徒たちに、科学の可能性を感じてもらいたかったからです。今の高校生にとって、「科学」というと、受験科目の「理科」で、ただ暗記するものだと捉えがちで、実生活とはかけ離れたものだと感じている生徒も少なくありません。
でも、本当のサイエンスって、私たちの身の回りにあふれています。そして、そのほとんどが、まだ解明されていないことばかり。「世の中なんてこんなものか」と諦めてしまうのではなく、「世の中はまだまだ謎だらけで、可能性に満ちているんだ!」と感じてほしいという思いです。
SNSやAIの進化によって、「自分なんて必要ないのでは?」と、どこか自己肯定感が低くなってしまう高校生もいると聞きます。
だからこそ、今回の研究を通して、身近な疑問から科学が始まり、それが新しい発見や可能性につながることを、彼らに肌で感じてもらえたら嬉しいと思っています。
この簡易な論文が、ばあばたちの知恵に光を当て、そして未来を担う高校生たちの「知的好奇心」に火をつけるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。



