島で生き、暮らしを運ぶ
引越しリーダーから見た宮古島生活
アイランデクス株式会社 宮古島営業所 北村大樹
宮古島で引越しの仕事をしていると、人の暮らしの始まりや終わりに立ち会う場面に出会います。荷物を運ぶだけでなく、その人の気持ちに寄り添いながら、丁寧に仕事を重ねていく。引越しリーダー・北村大樹が10年間の宮古島暮らしで考え続けてきた、「動き続ける」生き方とは。
■ 宮古島にやってきた理由

▲アイランデクス株式会社宮古島営業所 引越しリーダー・北村大樹
僕は熊本出身なんですが、寒いところが本当に苦手で、「暖かい場所で暮らしたい」と思ったのが宮古島に来たきっかけでした。今から10年くらい前のことです。最初は「3か月くらい、ちょっと遊びに行こうかな」ぐらいの軽い気持ちだったんです。仕事も住む場所も決めずに、とりあえず沖縄本島に行って、そこから人づてに「宮古島は絶対好きだと思うよ」って勧められて来てみたら……そのまま移住してましたね。
最初に働いたのが、島の居酒屋「うさぎ屋」でした。地元の人たちや移住者と出会える場所で、自然といろんな人とつながっていけました。あの頃に築いた人間関係が、今の僕の土台になっています。
■ 引越しの仕事を始めたきっかけ

▲アイランデクスで引越しの仕事を始めた頃
うさぎ屋を辞めた後、ゲストハウスの知り合いを通じて「引越し手伝ってくれない?」と声をかけてもらったのが、アイランデクスとの出会いでした。7年前のことだと思います。最初は1日単位の現場作業を手伝うようなスポット仕事で、軽トラで荷物を運んだり、先輩の作業を見ながらひたすら動いて覚えていく日々でした。
そのうち定期的に声がかかるようになって、現場でも任される範囲が広がっていきました。途中で一度離れたこともありましたが、また声をかけてもらって戻ってきて、そこからは業務委託という形でしばらく働いていました。
正社員になるときは迷いもありました。「自由がなくなるんじゃないか」「ずっと現場でやっていけるのか」と。でも、自分が関わる現場が増えてきて、段取りや進行を任される場面も多くなって。「もっとちゃんと責任を持ってやりたい」と自然に思うようになっていたんです。それが決め手になりました。
責任を感じるようになったのは、新人と一緒に現場に入ったときのことでした。冷蔵庫の搬入で少し判断を誤ってしまって、通路の幅が足りず、段取りを変える必要が出てしまったんです。自分の判断ひとつで、現場の流れが変わってしまう。それを痛感した瞬間でした。
それからは、現場に入る前の下見や養生、ルートの確認も自分の目で確かめるようにしています。誰かの荷物を預かって、それを無事に届けるという当たり前のことが、実はすごく重たい責任なんだと感じるようになりました。だからこそ、現場に立つ自分がどうあるかを真剣に考えるようになりました。
■ 宮古島の引越しは、“暮らし”を支えること

▲引越し現場は、日々様々な物語に満ちている
引越しって、ただ荷物を運ぶだけじゃないんです。お客さんの生活や背景がまるごと見えてくる。「この人は今、どんな気持ちで引っ越してるんだろう」って考えながら、できるだけ寄り添うようにしています。
印象的だったのは、島のおばあの引越しです。小さな一軒家に長く住んでいた方で、荷物がとにかく多くて、ひとつひとつに思い出が詰まっていました。引越しの準備を進める中で、どうしても処分しないといけない荷物を前にして、涙ぐまれていたんです。僕も胸が詰まってしまって、「これは残しましょう」「これは新しいところにも置けそうですね」と、一つひとつ声をかけながら選んでいきました。
最初は緊張されていたおばあも、少しずつ笑顔が見えてきて、最後に「あなたにお願いしてよかった」と言われたときには、本当にこの仕事をやっていてよかったと心から思いました。荷物を運ぶだけじゃなく、その人の気持ちごと引き受けてるんだなと実感した出来事でした。
■ 技術よりも、“どう向き合うか”

▲島の引越し作業は現場ごとに常に違うと言っていい
引越し作業って、天候や建物の構造によっても難易度が全然違うんです。たとえば、台風が近づく中での作業では、スケジュール調整がすごくシビアになりますし、風の影響で搬出そのものが危険になることもあります。僕が経験した中でも特に大変だったのは、狭い階段しかない集合住宅の5階から、大型家具を運び出す作業でした。養生(ようじょう)をしっかりしないと壁を傷つけてしまうし、搬出ルートの確保とチームでの声かけが鍵になる。そういう現場では、準備と段取りがすべてです。
作業そのものの技術ももちろん必要ですが、現場で一緒に働く仲間との連携や、その日のチームのバランスも含めて、「どう動くか」が問われる。だからこそ、チームでの役割分担や、現場に入る前の打ち合わせを欠かさないようにしています。
もちろん作業の正確さやスピードも大事だけど、それ以上に「この人たちなら任せられる」と思ってもらえることが大切だと感じています。
最近では、新しく入ってきた若い子の教育にも関わることが増えました。ミスがあっても怒ったりはしないようにしています。まず「なんでそうなったのか」を一緒に考える。やる気があるなら、ちゃんと応援してあげたいです。
現場の雰囲気もすごく大事。朝のひと言とか、休憩中のちょっとした会話で、ぐっと空気が良くなる。現場というのは、結局のところ「人」で決まると思います。
■ 島に生きる、心と体の整え方

▲島暮らしならではの風景の中にいると、必要なことが見えてくる
最初は不便だなと思ったこともありました。車がないと何もできないし、スーパーも少ないし。でも今では、それすらも心地よく感じるようになりました。夕陽を見ながら浜辺でビールを飲んだり、釣りに出かけたり。そういう時間が、自分を整えてくれるんです。
地元の人にも、最近では名前で呼ばれるようになってきました。昔は「移住者」って感覚が強かったけど、今は「島の一員」として受け入れてもらえてる実感があります。
バイクで走るのも好きです。熊本から九州を回って、沖縄に渡って、宮古島にたどり着いた流れも、言ってみればツーリングの延長だったかもしれません。
今でも、宮古島の海沿いを走ると、頭の中がスッと整理される。風の音とエンジン音だけの世界に身を置くと、自分の中の余計なものが削ぎ落とされて、必要なことが見えてくるんです。
僕にとって「動くこと」は、人生のキーワードかもしれません。体を動かすこと、仕事で現場に入ること、人と関わること、バイクで旅すること。その全部が、自分を前に進ませてくれる。
「止まらずに、変わり続ける」。それが、自分の中でずっと大切にしてきたことです。
■ 宮古島に来ようと思ってる人へ

▲宮古島が気になるなら、まず「動いてみる」ことが大事
島の暮らしって、ある意味「予定通りにいかない」ことの連続です。台風が来たり、道具が足りなかったり、人が足りなかったり。そういう状況でも、誰かが自然に動いて補い合っていく。その繰り返しが、僕の中で「動き続けること」への信頼を育ててくれました。
だから、もし今、迷ってる人がいたら——「まず動いてみてください」と伝えたいです。僕もそうでした。何も決めずに来たけど、来たからこそ見えてきた景色があった。うまくいかないこともあるけど、それも含めて全部が経験になって、今につながっています。
暮らしを運ぶ仕事。その最前線で、これからも誰かの「はじまり」に関わっていけたらと思っています。
【この記事を書いた人】
■井月保仁[いづやん]
いづやんのペンネームで活動する島旅フォトライター。大学在学中に訪れた小笠原で島に魅了され、以後ライフワークとして日本の離島を巡り、島旅ブログ「ISLAND TRIP」にて旅の様子を書き綴る。島の魅力を伝えるべく、Webメディアや雑誌、イベントなどで活躍。有人離島182島を巡っている(2025年4月現在)